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唐櫃-KARABITU-

華乃都と亜久野によるレイアース二次創作小説blogです。 PC閲覧推奨。

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trust


TOAよりジェイアニSS。

フェ風サイトなのに、レイアースと激しく無関係なSSをアップしてみる。
今何故どういう風の吹き回しでジェイアニなのかは、とっても亜久野の大人な事情です。
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▼ trust を読む

5話完成しました…

亜久野です。
生きてます。

・・・そんなことより、遅くなりました!
やっと5話完成です・・・!

以下に戯言をば。

▼ 戯言を読む

唐櫃~萌芽~



雲が月を隠してくれたあの日。初めての逢瀬の日。



あの日以来、昼間は女房たちがフェリオの行く手を阻んでいるのか、走ってやってきては自分の名を読んでくれる彼の姿を見ることはなくなった。
けれど、それに反比例するように、臥待月の頃や気紛れな雲が夜の光を遮ってくれる日に、彼がこっそりあの松の木の下に来ることが増えた。



初めはもしやと訪れ、二度目は僅かな期待を抱き、三度目は不確かな予感を信じた。
そうして始まった小さな逢瀬が、日常になるまでにそう時間はかからなかった。












「・・・フェリオさん、」



暗がりに目が慣れないうちは自分の家の庭と言えど、歩くのは怖い。
例え逢瀬が日常になり、そこに向かう道がいつも同じでも、闇の向こうから野良犬か何かが飛び出してきたらと思うと震えてしまう。



「…フェリオさん?」



不安でいつも彼の名を呼ぶ。きっと来てくれているはずだけど、もしかしたら今日は…。
もし彼が来ていなければ、自分はこの暗闇の中に一人きり。
そうやって、不安に押し潰されそうになった時、そんな時はきっと…。

















「…こっちだよ、風」



そう、彼はいつも優しく名前を呼んで道を示してくれる。
月が出てきた訳でも、明かりが灯った訳でもないのに、彼に名を呼んでもらった瞬間、いつもすっと辺りが見えるようになる。



「風、こっちこっち」



すっかり耳に馴染んだ声を頼りに、松の木の下に辿り着くとフェリオは必ず笑顔で出迎えてくれる。




「大丈夫だったか?見つかったりしてないか?」

「…いつもそう仰いますけど、私はそんなに頼りないですか?」

「あ、いや、違うんだ、そうじゃなくて……」

「…ひどいです、フェリオさん」




少し拗ねたように言うとフェリオは驚き、慌てて首をぶんぶん振って否定する。
上手く言えないのか言い淀む彼に、追い討ちをかけてみるとますます困り出した。
変わらず元気らしいことが解るとおかしさが込み上げてきて、風は思わずくすくすと笑みを零した。




「あ…からかったな?」

「ふふっ、すみません。いつも大丈夫かと聞いてくるんですもの。ですから、私がしっかりしてるところをお見せておこうと思いまして」

「…一本取られたな」

「しっかりしてますでしょう?」

「ま…そーだな」




悔しいのか、ぷいとそっぽを向いたまま投げやりに答える様子がおかしくて、風は再び笑いを零した。
それを見たフェリオは軽く肩を落とすと、むくれるのを止めてそっと風に向き直った。




「もうちょっとカッコよく渡したかったのになあ」

「…え?」




そっと渡されたのは小さな撫子の花束。
10本足らずの花の根元を紐で括っただけの質素な花束だったが、フェリオが朝からずっと庭中を駆け回って集めて作ってくれたものだった。
静かに高鳴る胸を押さえ、差し出された花束を受け取った。




「…これは、何に対するお詫びですか?」

「お詫び?」

「以前、花を頂いたときは驚かせたお詫びでしたから…」

「ああ、あれか…。今回のはそういうんじゃないんだ」

「…?ならば、何故?」

「なっ…べ、別に何でもいいだろっ」


















そう言ってそっぽ向いてしまった彼の頬が赤くなっていたような気がするのは、自分の見間違えだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、風は御簾ごしに輝く月を眺めた。
今日は満月。月の光は庭の隅々まで明るく照らしている。

もっと幼い頃は、火を焚かずとも明るい満月の夜が好きだった。
それも逢瀬が始まった今では、少しでも月明かりが暗い夜の方が好きになった。





満月の夜は逢えない。





お互いにそう約束した訳ではなかったけれど、そんなことも暗黙の了解となってしまうだけの逢瀬を重ねた。
月の明るい夜は草子を広げて文字を追う。目は文字を追うものの考えることは今までの逢瀬のこと。
できるだけ気配を殺し、雑兵の目をすり抜けて、草むらの中を掻い潜って逢いに来てくれる彼。
服が土で汚れていることなんていつものこと。木の枝に引っかかったのか、腕に傷を作っていたこともあった。
ろくな道具も持ってはいなかったものの、せめて傷口を布で押さえるだけでもと近寄ると、服が汚れるとバレるからと止められた。





「…服なんて……構わなかったのに………」





悲しかった。傷を作ってまでフェリオはここに来てくれる。
それなのに、ただ、服が汚れるという理由だけで、触れることすら出来ない。
きっと傷は痛いだろうに、自分の無力さに泣きそうな私を見ると、大丈夫だからと笑顔を向けてくれる。





「…どうして?」





どうして、私は何も出来ないの?
私だって、彼のために何かしてあげたい。彼に喜んでほしい。
部屋の文机の上には彼にもらった花が飾ってある。
貰うのはいつも私ばかり…。










『風さん…貴女は姫なのですよ。それは解っていますね?』










ふと耳に蘇ったのは、いつかの母の言葉。

私は、姫。
彼は、雑兵。

どうにもできない身分の差。
私はいずれどこかの貴族の御曹司に嫁がされ、彼はどこかの娘と結ばれる。










「…………っ」










悲痛な思いを声に出したつもりが、出てきたのは嗚咽。
気付いてしまった。
これは、一時の好奇心などではないということに―…。


どうすればいいの?
どうしたらいいの?


ぎゅっと手を握り、ただ涙を流すしかできない。
逢いたいのに、逢いに行けない。
私は本当に無力…。

















「……たか?そっち……」

「……向こうは……」




声を殺して泣いていると、遠くから警備にあたる雑兵たちの声が聞こえてきた。
外に注意を向けてみると、先程と違って外が騒がしくなっているようで人の気配がする。

―まさか

そう思った瞬間、体はするりと御簾を抜け出していつもの場所に向かっていた。


今日は満月。
彼は来ない。
でも、もしかしたら…。


小走りで庭をすり抜け、お願いと心の中で叫びながら松の木の裏側に回りこんだ。















「…風」

「フェリオさん…」



いないはずの彼を見つけた瞬間、安堵と喜びでぺたりとその場に座り込んだ。
どうしたんだと慌てる彼を見ながら、風はまた涙を流した。
誰かに何か言われたのか、どこか怪我をしたのか、心配そうにこちらの様子を伺う彼にただ首を振り泣き続けた。
ただ泣き続ける少女を目の前に、途方にくれたフェリオはそっと寄り添い、風の肩に手を回した。
大丈夫だと言う様に、ぎゅっと肩に置く手に力を込める。



温かい体と置かれた手に、やがて風は落ち着きを取り戻して涙を拭いた。



「…落ち着いたか?」

「はい、すみませんでした…」

「いや、構わないよ」



いつものように笑ってくれる彼に、自然とこちらも笑顔になる。
そして、今迄で一番近い距離にいることに頬に熱が集まるのが解った。



「…あ、あの、」

「ん?」

「今日は満月ですよね?」

「ああ、そうだな。明るくて、大変だったよ」

「……何故、ですか?何故、危ない思いをしてまで…」



そう尋ねるとフェリオは少し俯き、何かを考えた後まっすぐに風を見つめた。



「風が泣いてるような気がしたんだ。…気が付いたら、ここに居た。それだけだ」

「……―、」

「居たか?」







気付いたらここに居たんだと言って笑った彼の笑顔にまた涙が込み上げて来て、逢いたかった、と告げようとしたその時だった。
さっきは遠くに聞こえていた雑兵の声がすぐ近くで聞こえた。

 


第四話アップ

夏バテに負けている華乃都です↓↓

た、大変遅くなりました!第四話UPしましたぁ~!
なんかもう、収集着かなくなってめっちゃ長いですゴメンナサイ><

続きに内容ネタバレ執筆感想書いてみたり。

▼ 続きを読む(ネタバレ注意)

唐櫃~霧恋~

 


-キミが笑うと嬉しくなって、キミが泣くと悲しくなるのはどうしてなんだろう。





暖かな日差しが注ぐ昼頃。
パタパタと軽快な足音が床板を鳴らし、廊下を歩く雑兵や侍女達をすり抜けていく。
後ろから注意を促す声が聞こえ、フェリオは「はーい」と口だけの返事をした。両手で大切そうに抱えた箱を落さないよう慎重に、それでも気持ちは急いで、ただ黙々と風の元へと向かった。
風の部屋の前。いつもの様に簾は下がったままだ。フェリオは大きく息を吸って、簾の奥へ届くように声を出した。
「風!今日は姉上から菓子を頂いたんだ。一緒に食べよう。」

返事がない。
いつもなら、そっと様子を伺うようにその簾から顔を覗かせるのに、どんなに待っても簾も中にある人影も動く気配がない。フェリオは、首をかしげ、もう一度「風!」と名を呼んだ。

「食べたく、ありません。」
囁きかと思うくらい小さな声が一言聞こえたが、それきりどんなに呼び掛けても、風の姿も声も現れることはなかった。

仕方なく菓子を手に部屋へと戻るフェリオ。足取りは行きと正反対に重たい。
部屋に着き、自分用の小さな机に菓子箱を置くと、その前にどかっと座り込んだ。




…どうしたんだろう。昨日までは声をかければ飛び出す―とまではいかないが、優しく笑って姿を見せてくれたのに。
なにかまた、気付かないうちに怖がらせるような事をしてしまったのだろうか。

「あーっ、もう!」
様々な思いがぐるぐると頭を駆け巡る。フェリオは両の手で頭を押さえ机に顔を押し付けるようにして伏せた。

最近、自分が変だと思う。
朝、目が覚めて、食事をして勉強をして。それから友人たちと体力の限界まで遊んで床に就く。今までそれが退屈だとは思った事はない。
仲の良い友人たちと庭で遊戯をしたり、時々大人達をからかっては怒られて。そんな毎日が楽しかった。それがすべてだった。

けれどそこに風が現れた。
突然目の前で泣きだし、嫌われたのかと思えば、何事もなかったかのように凛とした面持ちで怪我の手当てをしてくれた。変な奴、と心の中で密かに笑ったのを覚えている。
それから一緒に遊ぶようになって、風の事が徐々にわかってきた。
物静かだけど自身を強く持っていて、頭も良い。なのに時折どこか少し抜けた発言をする。
自分とは品格も性格もまったく違う雰囲気の少女。

「…なんだろ、ホント。」
顔を上げて左ヒジを机に立てると、手のひらで口元を押さえる。思わずそう言葉が漏れた。

姉上にこの想いを聞いてもらおうかと立ちかけて、やめた。
姉上なら今の自分に最良な言葉を掛けてくれるに違いない。しかし、今回はなぜだか妙に気恥ずかしい。
それに、今自分が考えなくてはならない事は先ほどの風の態度だ。
声質が明らかに違っていた。初めて聴く低くて悲しそうな声。
その時フェリオは、はっとした。あまりにも小さくて聞き取りづらかったが、その声はわずかに震えてはいなかっただろうか。

気が付くと、何も考えずに部屋を飛び出していた。
菓子箱はそのままに、ただ夢中で風のもとへ向かった。

- あの時、風は泣いていた…?

いくつもの部屋を過ぎて、廊下を渡る。次の角を曲がれば風の部屋に繋がる廊下に出るはずだ。フェリオは勢いよく身体を傾けた。
と、その時突然目の前が暗くなり、衝撃と共に身体は後ろに飛ばされてしまった。

「いてて・・・」
思いっきり尻餅をついたフェリオは腰のあたりを擦る。
その光景は風と出会った時に類似していたが、ぶつかった相手は全く違っていた。
大人の女性。それも見たことのない様な派手な装いの女性が壁にもたれ、立っている。

「っなんですか、一体。」
「す、すみません!俺、急いでいて・・・」
「廊下は走っていけないと教わりませんでしたか。これだから雑兵の子供は・・・―」
そういって目つきのきつい女性は乱れた着物をわざとらしく直すと、フェリオを上から見下ろした。
「…貴方、この先に何用ですか?」
「え、あ・・・俺は、風に用事があって・・・。」女性の眉がピクリと動いた。
「姫に?」
「ひめ?」
首を傾げたフェリオを女性は覗き込むように見て、それから「ああ・・・貴方が・・・」と呟いた後、先ほど以上に蔑んだ表情をフェリオに向けた。

「帰りなさい。ここは貴方の様な子供が来て良い場所ではありません。」
「え、だって俺は風の・・・―」
「貴方は姫のご学友に相応しくないと、后妃様がご判断いたしました。姫とはもう二度とお会いになりませんように。」
ふんと鼻を鳴らして女性はフェリオの行く手を阻むように廊下に立ち尽くした。

-風が、姫? 俺がご学友?
女性の言葉に困惑しながらも、フェリオは「けど…!」と反論の声を上げた。しかし女性の眼光はあまりに鋭く、ここは大人しく戻った方がいいとフェリオの本能が伝えた為、素直に踵を返し、足取り重く自室へと戻った。






秋夜の月は、明るい。
しかし、今夜は少し雲が多く、霧もかかっていた。

しん、と静まりかえった屋敷内。
週に3回は行われている貴族達の宴会も今日はない。皆、寝静まっている。
フェリオは寝室をそっと抜け出すと、足音を最小限に廊下を走った。風の部屋の手前の角-昼に女性とぶつかった辺り-で足を止め、そっと様子を伺う。すると一人の警備兵が立っていた。
女性の差し金だろうか。さすがにその前を通るわけに行かず、フェリオは来た道を少し戻ると渡り廊下から中庭へ出た。

中庭の中央には大きな古池があって、その回りを囲う様に様々な植物が生き生きと茂っている。
古池には希少な錦鯉が優雅に泳いでおりとても涼しげであった。
そしてその中庭で一際目立つ大きな松は、樹齢三百年を誇るものであり、長年多くの庭師によって手入れされてきた逸品だ。
そんな木々や草むらの中を隠れながらフェリオは進む。しばらくすると整備された場所から外れ、屋敷の裏側へと続く道に出た。
そこは誰も手をつけていないだけあって、まばらに生えた雑草が生い茂っている。人一人通るのがやっとといった感じだ。
そんな隙間を子供のフェリオはスイスイと歩く。そしてあるところで足を止めて、屋敷に沿って構えられた塀に登り、屋敷側にある小窓から中を覗いた。それは風の部屋に繋がった窓である。
しかし、暗くて何も見えない。じっと様子を伺うが、どんなに神経を研ぎ澄ませても人の気配は全く感じられなかった。

-…部屋を移動したのかな?

仕方なく塀からそっと降りて、来た道を戻る。

「…風。」
呟くと、胸の奥がチクリと痛んだ。



フェリオは中庭へ戻ってきた。不意に空を見上げるとそこには霧のヴェールを被ったおぼろげな月が見える。
視線を中庭に戻す。すると、古池の前にしゃがんで何かをしている風を見つけた。
霧で少し霞んで見えるが、自分と同じ位の背格好、金色の髪。あの姿は間違いない。
先程痛んだ胸が今度はドキリ大きくなった。
するとフェリオは、自分の足が竦んでいることに驚いた。剣の稽古で師範と戦った時だってそんな事はなかったのに。
フェリオはぎゅっと両手を身体の横で握って、口を開く。間を置いて出た自分の声は、あまりにも情けなく聞こえた。

「風」

ビクっと肩を揺らした風。
風は戸惑いながらもゆっくりと振り返り、二人の目が合った。

「フェリオさん…」
「なに、してるんだ?こんな所で。」
「…水を…替えていました。」
風の両手には一輪挿しがあり、そこには先日フェリオがプレゼントした一輪の芙蓉の花が挿してある。
大分日が経っているにも関わらず、とても元気に咲いていて、フェリオは自然と笑みがこぼれた。
「大切に…してくれてるんだ。」
「……」
無言で俯いた風は、月の微光に照らされてほんのりと赤い頬をしていた。
心臓が、とくん、と音を立てる。

フェリオは自分の胸の真ん中に手を当て、服と一緒に強く握る。体が熱い。
「こ、ここだと誰かに見つかるかもしれない。隠れよう。」
「……はい。」
フェリオは風に背を向けて、きょろきょろと辺りを見回す。そして、樹齢三百年の松へ向かった。風も霧でフェリオを見失わない様に後を追った。




松の木の裏。ここは渡り廊下からは陰になっている死角になっている場所であり、二人はそこへ並んで座った。
いくら大樹といえど、幹は子供二人並んでやっとの太さだ。息をするだけで肩が触れてしまいそうなほどの近さにフェリオの心臓は今にも飛び出しそうだった。
落ち着け、と自分の胸を叩いて、それから風を見た。風もどこか落ち着かない様子で、それを抑える様に一輪挿しをしっかりと胸に抱え、芙蓉の花をじっと見つめていた。
その優しげな横顔をフェリオは凝視出来なくなり、目線を正面に向け、切り出そうと息を吸った時、あの、と風が先に声を出した。
え、と振り向くフェリオ。目の前に自分を見つめる風の顔があった。
それから風は深々と、けれど胸に抱えてある花を潰さないようにそっと頭を下げた。

「今朝は…呼んで頂いたのに、顔を出さなくて本当にごめんなさい。」
「い、いいんだ、そんなの。でも、何かあったのか?あの後もう一度風の部屋に行こうと思ったら、女の人に止められたんだ。『二度と会わないように』って。」
え!、と息を飲むように驚いた風は俯いて、一言、「ごめんなさい」と呟いた。それからその女性は、自分に文学や教養を教えてくれている家庭教師だと、フェリオに伝えた。そんな勉強方法があったのかとフェリオは驚く。

今まで決められた時間と部屋に子供達が集まり、一人の先生が勉強を教えるという方法しかフェリオは経験していなかった。一人の生徒に一人の先生がつく勉強。特殊な授業であることに間違いない。
やはり風は自分達とは違うのだとフェリオは確信した。
宵闇で気が付かなかったが、今の寝間着に近い服装だって、寝心地の良さそうな清潔感のある白い服だ。あり合わせの古布を縫い合わせた自分の寝間着とは大違い。身分の差を、ひどく感じた。

「その家庭教師が、お前の事、『姫』って言ってた。」
「…はい。」
「そう…だったんだ。」
相づちとも肯定とも取れる風の返事に、フェリオは俯いてしまった。
フェリオの沈んだ声に、風が身体をフェリオの方に向けて両手を膝の前で重ねて頭を下げた。
「本当にごめんなさい。」

風の丁寧な謝罪に、フェリオが笑った。風はなぜそこでフェリオが笑ったのかわからず、首を傾げた。
「フェリオさん…?」
「ごめん、ごめん。だって風、さっきから謝ってばっかじゃん。」
「それはっ、私がフェリオさんにウソをついていたから…」
「風はウソなんかついてないよ。ただ黙ってただけ、…だろ?」
ニッといつもと同じように笑うフェリオ。言葉に偽りの無い笑顔に風の目に涙が溢れる。
「っ……。」
「え、な、なんで泣くんだよっ。オレ、なんかひどい事言ったか!?」
慌てふためくフェリオに、風は大きく首を振ってから自分の指で涙を拭って顔を上げた。

「ありがとうございます。私、フェリオさんの笑顔が…とても好きです。」
風が見せた笑顔と何気ない言葉に、フェリオは息を飲む。

次の瞬間、頭の中で散らばっていた感情がすべて繋がった気がした。


「…そろそろ、部屋に戻りますね。」
先程より屋敷内が騒がしくなってきた事に風は気が付いた。
固まっていたフェリオも我に返り、物音に耳を澄ませる。

「一人で大丈夫か?」
「はい。」
「暗いから、転ぶなよ?」
真剣に注意をするフェリオに風はきょとん、としてそれからくすくす、と笑った。
「私って、そんなに危なかしいですか。」納得した様に語尾を下げて言うと、ちがう、とフェリオが首を振った。

「…オレが心配なだけだ。」
「え?-」
「人気がなくなったみたいだな。風、今のうちにほら早く。」
赤くなった顔を見られたくなくて先に立ち上がったフェリオは、風の手を引いて立ち上がらせると、そのまま風の身体をくるりと回して背中をポンと押した。風の足が数歩フェリオから離れて止まる。
そっと振り返った風にフェリオは手を振って一言「おやすみっ。」と告げた。

「おやすみなさい。」
風はその場で軽く会釈をして、踵を返すと花瓶から水がこぼれない様に慎重に小走りで渡り廊下へ向かっていった。

暗闇で聞こえる足音に風の姿を想像して、口元が緩む。
それからはっとして、大きなため息の後、しゃがみ込むと膝に顔を埋めると腕で覆った。
腕に当たる頬と耳が熱い。

「オレは…風が好きだったんだ。」

そう身体の中で籠もる声は長い間挑んでいた問題が解けたかのような安堵感と、初めて味わう淡く温かい感情に満ちていた。
フェリオは顔をあげる。そっか。と笑みがこぼれた。
幼心に初めて生まれた恋という感情にフェリオはただ浮かれている。

そんなフェリオの想いを覆い隠してしまうかの様に、その晩、霧は一段と深さを増していった。




~fin~


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