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唐櫃-KARABITU-

華乃都と亜久野によるレイアース二次創作小説blogです。 PC閲覧推奨。

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唐櫃 ~衝動~




「先程百姓達が話しているのを聞いたのですが、西山の向こうの国で何やら天災があったそうですよ」



「なんと恐ろしい。こちらまで被害が来なければいいが」



二人の貴族は、木の死角となっていた風に気付く事なく、そのまま屋敷の奥へ姿を消した。



―……天災



手に取った撫子の花片が、風もないというのに足元に落ちた。








▽続きを読む


翌日、一人の来客者により、噂は現実となった。



西の山を越えた先にある豊かで広大な国。彼はその国の武将だ。



「一昨日、我が国は大規模な天災に遭いました。」



大地が激しく揺れ、建造物は激しく崩壊。国の東側にある山は各所で土砂崩れを起こし、南西に広がる海からは津波が押し寄せた。

被害状況は深刻であるが、人手不足で対応が出来ないでいる。

どうか助けてほしい、という相手方領主からの援助要請だった。



大将直々の申し出に我が国の領主である父は、直ぐ様武士団の派遣及び物資の提供を承諾。

西の国の復興に協力を約束した。









その日の夜。



出立の準備で慌ただしい屋敷内。

戦服を見にまとったフェリオは簡易な鎧の重量にまだ慣れないまま、正門の外で警備兼明日の準備をしていた。





―しばらく、戻れないだろうな…。





今まで屋敷を離れた事などなかった。

訓練などで一週間前後留守にする事はあったが、今回は訳が違う。





―気掛かりなのは、一つだけ…





曇った空はまるで新月の夜の様で、あの頃を思い出す。

…まぁ、月夜の晩も忘れた事などないけどな…―







「フェリオっ。」





突然、想像していた声が聞こえた。

辺りを見回すと、なぜか外壁伝いに、こちらへと走ってくる女性の姿。

色彩が暗く統一されてしまうこんな曇天の夜でも、間違える事はない。



「風…姫…!?」



驚いて、思わず大きな声が出てしまった。



どうしてここに!?と訪ねると、風は胸に手を当てて、息を整えながら、裏門から来たのだという。

風は華やかな衣装を脱いだ質素な軽装姿で、手に風呂敷包みを抱えていた。



「こんな時間に、どうしたんだ!?」



「…フェリオも、西の国へ向かわれるのでしょう?」



「…ああ。」



フェリオは自分の腰に手を当てて、肩の力を抜くように、息を吐いた。



「しっかり働いてくるよ。復興に貢献出来れば、西の国との友好関係が更に良いものになる。そうすれば、将来的にこの国も豊かになるんだろう?」



「そうですね…。」



この国は、とても狭い。

西の国の半分ほどだ。

農作物も決まった物しか取れず、決して豊かとは言えないだろう。

一方、西の国は漁業が盛んだった。山と海の両方に恵まれた土地。



けれど、この国にも彼らに負けない物資がある。

それは鉄鉱物。

農具や武器具の生産量は非常に多い。



過去に両国で争いがあったという文献が残ってはいるが、それは昔の話。

現在は交易を中心に良い交流関係を保っている二国なのであった。





「……心配…ですね。」



風は過去に何度か西の国へ訪れている。

領主の一族の安否が気にならないわけがない。



沈んだ風の肩をフェリオは、ポン、と優しく叩く。

気休めでもいい、少しでも元気になってくれるなら。

風は一瞬驚いた表情でフェリオを見上げると、嬉しそうにふわりと笑った。





「あの、フェリオ、これ…」

風は手に持っていた風呂敷包みをフェリオに渡した。

手のひらに乗るほどの大きさのそれの包みを開けると、三角の形をしたおむすびが三つ並んでいる。まだ温かい。



「道中に、召し上がって下さい。」



「あ…ありがとう…」



思わぬ贈り物に、フェリオは照れて後頭部を掻いた。



「私の方こそ、お花をありがとうございます。」



風の言葉にフェリオはドキッとした。





―…あの花を、彼女はどう捉えたのだろう。



撫子の花言葉は……







「以前も、くださいましたよね。花束を。」



「え…?」



「なんだかとても懐かしく思いました。」





しばしの沈黙。





「どうかされました?」



「…いや。」

ため息のかわりに漏れた声は地面に、ぽとり、と落ちた。





―届きそうで届かない、この気持ち。





気付かれず、歯痒いと感じる半面、ほっと胸を撫で下ろしている自分がいる。





―届いては、行けない。



なのに…―















無意識に、

右手が、風の頬に伸びた。



「戻ったら…―」



―伝えたい事がある。





「……フェ…リオ?」













「……っ…―」



やめろ、と理性が自分を引き留める。

フェリオは風から手を離した。



「ごめん、なんでもないんだ。」



―…この想いは、風を傷付けるだけ。







体を打ち鳴らす鼓動の根源辺りを強く拳を握りしめて、フェリオは風の方を向き直した。



「じゃあ、」



感謝の意味を込めて、おむすびを持つ手を少し高く上げる。



風は深く頭を下げた。



「どうか、お気をつけて。」



フェリオはニッコリと微笑んで、くるりと踵を返すと駆け足で正門の方へ向かった。







その後ろ姿を、風は静かに見送る。

ふと、正門に佇む男性と目があった。



―あの方は…西の国の武将。



昨日、風も同じ席で彼の話を聞いていた。

男性は姿勢を正し、腰を曲げて会釈した。勿論、風も慌てて会釈を送り返す。



彼に悪い印象はない。

寧ろ忠誠心があり、紳士的に見えた。









次の日の明朝、彼を筆頭にフェリオ達は西の国へ出立したのである。






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