忍者ブログ
NinjaToolsAdminWriteRes

唐櫃-KARABITU-

華乃都と亜久野によるレイアース二次創作小説blogです。 PC閲覧推奨。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


唐櫃~霧恋~

 


-キミが笑うと嬉しくなって、キミが泣くと悲しくなるのはどうしてなんだろう。





暖かな日差しが注ぐ昼頃。
パタパタと軽快な足音が床板を鳴らし、廊下を歩く雑兵や侍女達をすり抜けていく。
後ろから注意を促す声が聞こえ、フェリオは「はーい」と口だけの返事をした。両手で大切そうに抱えた箱を落さないよう慎重に、それでも気持ちは急いで、ただ黙々と風の元へと向かった。
風の部屋の前。いつもの様に簾は下がったままだ。フェリオは大きく息を吸って、簾の奥へ届くように声を出した。
「風!今日は姉上から菓子を頂いたんだ。一緒に食べよう。」

返事がない。
いつもなら、そっと様子を伺うようにその簾から顔を覗かせるのに、どんなに待っても簾も中にある人影も動く気配がない。フェリオは、首をかしげ、もう一度「風!」と名を呼んだ。

「食べたく、ありません。」
囁きかと思うくらい小さな声が一言聞こえたが、それきりどんなに呼び掛けても、風の姿も声も現れることはなかった。

仕方なく菓子を手に部屋へと戻るフェリオ。足取りは行きと正反対に重たい。
部屋に着き、自分用の小さな机に菓子箱を置くと、その前にどかっと座り込んだ。




…どうしたんだろう。昨日までは声をかければ飛び出す―とまではいかないが、優しく笑って姿を見せてくれたのに。
なにかまた、気付かないうちに怖がらせるような事をしてしまったのだろうか。

「あーっ、もう!」
様々な思いがぐるぐると頭を駆け巡る。フェリオは両の手で頭を押さえ机に顔を押し付けるようにして伏せた。

最近、自分が変だと思う。
朝、目が覚めて、食事をして勉強をして。それから友人たちと体力の限界まで遊んで床に就く。今までそれが退屈だとは思った事はない。
仲の良い友人たちと庭で遊戯をしたり、時々大人達をからかっては怒られて。そんな毎日が楽しかった。それがすべてだった。

けれどそこに風が現れた。
突然目の前で泣きだし、嫌われたのかと思えば、何事もなかったかのように凛とした面持ちで怪我の手当てをしてくれた。変な奴、と心の中で密かに笑ったのを覚えている。
それから一緒に遊ぶようになって、風の事が徐々にわかってきた。
物静かだけど自身を強く持っていて、頭も良い。なのに時折どこか少し抜けた発言をする。
自分とは品格も性格もまったく違う雰囲気の少女。

「…なんだろ、ホント。」
顔を上げて左ヒジを机に立てると、手のひらで口元を押さえる。思わずそう言葉が漏れた。

姉上にこの想いを聞いてもらおうかと立ちかけて、やめた。
姉上なら今の自分に最良な言葉を掛けてくれるに違いない。しかし、今回はなぜだか妙に気恥ずかしい。
それに、今自分が考えなくてはならない事は先ほどの風の態度だ。
声質が明らかに違っていた。初めて聴く低くて悲しそうな声。
その時フェリオは、はっとした。あまりにも小さくて聞き取りづらかったが、その声はわずかに震えてはいなかっただろうか。

気が付くと、何も考えずに部屋を飛び出していた。
菓子箱はそのままに、ただ夢中で風のもとへ向かった。

- あの時、風は泣いていた…?

いくつもの部屋を過ぎて、廊下を渡る。次の角を曲がれば風の部屋に繋がる廊下に出るはずだ。フェリオは勢いよく身体を傾けた。
と、その時突然目の前が暗くなり、衝撃と共に身体は後ろに飛ばされてしまった。

「いてて・・・」
思いっきり尻餅をついたフェリオは腰のあたりを擦る。
その光景は風と出会った時に類似していたが、ぶつかった相手は全く違っていた。
大人の女性。それも見たことのない様な派手な装いの女性が壁にもたれ、立っている。

「っなんですか、一体。」
「す、すみません!俺、急いでいて・・・」
「廊下は走っていけないと教わりませんでしたか。これだから雑兵の子供は・・・―」
そういって目つきのきつい女性は乱れた着物をわざとらしく直すと、フェリオを上から見下ろした。
「…貴方、この先に何用ですか?」
「え、あ・・・俺は、風に用事があって・・・。」女性の眉がピクリと動いた。
「姫に?」
「ひめ?」
首を傾げたフェリオを女性は覗き込むように見て、それから「ああ・・・貴方が・・・」と呟いた後、先ほど以上に蔑んだ表情をフェリオに向けた。

「帰りなさい。ここは貴方の様な子供が来て良い場所ではありません。」
「え、だって俺は風の・・・―」
「貴方は姫のご学友に相応しくないと、后妃様がご判断いたしました。姫とはもう二度とお会いになりませんように。」
ふんと鼻を鳴らして女性はフェリオの行く手を阻むように廊下に立ち尽くした。

-風が、姫? 俺がご学友?
女性の言葉に困惑しながらも、フェリオは「けど…!」と反論の声を上げた。しかし女性の眼光はあまりに鋭く、ここは大人しく戻った方がいいとフェリオの本能が伝えた為、素直に踵を返し、足取り重く自室へと戻った。






秋夜の月は、明るい。
しかし、今夜は少し雲が多く、霧もかかっていた。

しん、と静まりかえった屋敷内。
週に3回は行われている貴族達の宴会も今日はない。皆、寝静まっている。
フェリオは寝室をそっと抜け出すと、足音を最小限に廊下を走った。風の部屋の手前の角-昼に女性とぶつかった辺り-で足を止め、そっと様子を伺う。すると一人の警備兵が立っていた。
女性の差し金だろうか。さすがにその前を通るわけに行かず、フェリオは来た道を少し戻ると渡り廊下から中庭へ出た。

中庭の中央には大きな古池があって、その回りを囲う様に様々な植物が生き生きと茂っている。
古池には希少な錦鯉が優雅に泳いでおりとても涼しげであった。
そしてその中庭で一際目立つ大きな松は、樹齢三百年を誇るものであり、長年多くの庭師によって手入れされてきた逸品だ。
そんな木々や草むらの中を隠れながらフェリオは進む。しばらくすると整備された場所から外れ、屋敷の裏側へと続く道に出た。
そこは誰も手をつけていないだけあって、まばらに生えた雑草が生い茂っている。人一人通るのがやっとといった感じだ。
そんな隙間を子供のフェリオはスイスイと歩く。そしてあるところで足を止めて、屋敷に沿って構えられた塀に登り、屋敷側にある小窓から中を覗いた。それは風の部屋に繋がった窓である。
しかし、暗くて何も見えない。じっと様子を伺うが、どんなに神経を研ぎ澄ませても人の気配は全く感じられなかった。

-…部屋を移動したのかな?

仕方なく塀からそっと降りて、来た道を戻る。

「…風。」
呟くと、胸の奥がチクリと痛んだ。



フェリオは中庭へ戻ってきた。不意に空を見上げるとそこには霧のヴェールを被ったおぼろげな月が見える。
視線を中庭に戻す。すると、古池の前にしゃがんで何かをしている風を見つけた。
霧で少し霞んで見えるが、自分と同じ位の背格好、金色の髪。あの姿は間違いない。
先程痛んだ胸が今度はドキリ大きくなった。
するとフェリオは、自分の足が竦んでいることに驚いた。剣の稽古で師範と戦った時だってそんな事はなかったのに。
フェリオはぎゅっと両手を身体の横で握って、口を開く。間を置いて出た自分の声は、あまりにも情けなく聞こえた。

「風」

ビクっと肩を揺らした風。
風は戸惑いながらもゆっくりと振り返り、二人の目が合った。

「フェリオさん…」
「なに、してるんだ?こんな所で。」
「…水を…替えていました。」
風の両手には一輪挿しがあり、そこには先日フェリオがプレゼントした一輪の芙蓉の花が挿してある。
大分日が経っているにも関わらず、とても元気に咲いていて、フェリオは自然と笑みがこぼれた。
「大切に…してくれてるんだ。」
「……」
無言で俯いた風は、月の微光に照らされてほんのりと赤い頬をしていた。
心臓が、とくん、と音を立てる。

フェリオは自分の胸の真ん中に手を当て、服と一緒に強く握る。体が熱い。
「こ、ここだと誰かに見つかるかもしれない。隠れよう。」
「……はい。」
フェリオは風に背を向けて、きょろきょろと辺りを見回す。そして、樹齢三百年の松へ向かった。風も霧でフェリオを見失わない様に後を追った。




松の木の裏。ここは渡り廊下からは陰になっている死角になっている場所であり、二人はそこへ並んで座った。
いくら大樹といえど、幹は子供二人並んでやっとの太さだ。息をするだけで肩が触れてしまいそうなほどの近さにフェリオの心臓は今にも飛び出しそうだった。
落ち着け、と自分の胸を叩いて、それから風を見た。風もどこか落ち着かない様子で、それを抑える様に一輪挿しをしっかりと胸に抱え、芙蓉の花をじっと見つめていた。
その優しげな横顔をフェリオは凝視出来なくなり、目線を正面に向け、切り出そうと息を吸った時、あの、と風が先に声を出した。
え、と振り向くフェリオ。目の前に自分を見つめる風の顔があった。
それから風は深々と、けれど胸に抱えてある花を潰さないようにそっと頭を下げた。

「今朝は…呼んで頂いたのに、顔を出さなくて本当にごめんなさい。」
「い、いいんだ、そんなの。でも、何かあったのか?あの後もう一度風の部屋に行こうと思ったら、女の人に止められたんだ。『二度と会わないように』って。」
え!、と息を飲むように驚いた風は俯いて、一言、「ごめんなさい」と呟いた。それからその女性は、自分に文学や教養を教えてくれている家庭教師だと、フェリオに伝えた。そんな勉強方法があったのかとフェリオは驚く。

今まで決められた時間と部屋に子供達が集まり、一人の先生が勉強を教えるという方法しかフェリオは経験していなかった。一人の生徒に一人の先生がつく勉強。特殊な授業であることに間違いない。
やはり風は自分達とは違うのだとフェリオは確信した。
宵闇で気が付かなかったが、今の寝間着に近い服装だって、寝心地の良さそうな清潔感のある白い服だ。あり合わせの古布を縫い合わせた自分の寝間着とは大違い。身分の差を、ひどく感じた。

「その家庭教師が、お前の事、『姫』って言ってた。」
「…はい。」
「そう…だったんだ。」
相づちとも肯定とも取れる風の返事に、フェリオは俯いてしまった。
フェリオの沈んだ声に、風が身体をフェリオの方に向けて両手を膝の前で重ねて頭を下げた。
「本当にごめんなさい。」

風の丁寧な謝罪に、フェリオが笑った。風はなぜそこでフェリオが笑ったのかわからず、首を傾げた。
「フェリオさん…?」
「ごめん、ごめん。だって風、さっきから謝ってばっかじゃん。」
「それはっ、私がフェリオさんにウソをついていたから…」
「風はウソなんかついてないよ。ただ黙ってただけ、…だろ?」
ニッといつもと同じように笑うフェリオ。言葉に偽りの無い笑顔に風の目に涙が溢れる。
「っ……。」
「え、な、なんで泣くんだよっ。オレ、なんかひどい事言ったか!?」
慌てふためくフェリオに、風は大きく首を振ってから自分の指で涙を拭って顔を上げた。

「ありがとうございます。私、フェリオさんの笑顔が…とても好きです。」
風が見せた笑顔と何気ない言葉に、フェリオは息を飲む。

次の瞬間、頭の中で散らばっていた感情がすべて繋がった気がした。


「…そろそろ、部屋に戻りますね。」
先程より屋敷内が騒がしくなってきた事に風は気が付いた。
固まっていたフェリオも我に返り、物音に耳を澄ませる。

「一人で大丈夫か?」
「はい。」
「暗いから、転ぶなよ?」
真剣に注意をするフェリオに風はきょとん、としてそれからくすくす、と笑った。
「私って、そんなに危なかしいですか。」納得した様に語尾を下げて言うと、ちがう、とフェリオが首を振った。

「…オレが心配なだけだ。」
「え?-」
「人気がなくなったみたいだな。風、今のうちにほら早く。」
赤くなった顔を見られたくなくて先に立ち上がったフェリオは、風の手を引いて立ち上がらせると、そのまま風の身体をくるりと回して背中をポンと押した。風の足が数歩フェリオから離れて止まる。
そっと振り返った風にフェリオは手を振って一言「おやすみっ。」と告げた。

「おやすみなさい。」
風はその場で軽く会釈をして、踵を返すと花瓶から水がこぼれない様に慎重に小走りで渡り廊下へ向かっていった。

暗闇で聞こえる足音に風の姿を想像して、口元が緩む。
それからはっとして、大きなため息の後、しゃがみ込むと膝に顔を埋めると腕で覆った。
腕に当たる頬と耳が熱い。

「オレは…風が好きだったんだ。」

そう身体の中で籠もる声は長い間挑んでいた問題が解けたかのような安堵感と、初めて味わう淡く温かい感情に満ちていた。
フェリオは顔をあげる。そっか。と笑みがこぼれた。
幼心に初めて生まれた恋という感情にフェリオはただ浮かれている。

そんなフェリオの想いを覆い隠してしまうかの様に、その晩、霧は一段と深さを増していった。




~fin~

PR

●Thanks Comments

●この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
E-mail
URL
コメント
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード ※投稿者編集用
秘密? ※チェックすると管理人にしか見えません

●この記事へのトラックバック

TrackbackURL:

≪ 第四話アップ |PageTop| 暑っい今日この頃。 ≫

華乃都プロフィール ▽

亜久野プロフィール ▽

唐櫃のつぶやき ▽


カウンター

ヒトコト

御意見・感想・誤字脱字指摘など
何なりとお気軽にどうぞ。
御返事はレスにて致します。
Powered by SHINOBI.JP

ブログ内検索

バーコード


※ 忍者ブログ ※ [PR]
 ※
Writer 【華乃都・亜久野】  Design by NUI.T  Powered by NinjaBlog