そよ風と君
2008.06.30 |Category …小説~亜久野SS~
フェリオ王子が惚気てます。
風ちゃんにぞっこんな王子さまが大好きです。
▽そよ風と君
「はぁ……ちょっと疲れたな」
溜息と共に椅子の背凭れに背を預けてぐっと伸びをすると、ゆっくりと立ち上がり窓へと歩み寄った。
伝説の魔法騎士がこのセフィーロを救ってから随分と経ち
エメロード姫が祈りに寄って支えていた頃と変わらない美しい世界になった。
その平和の象徴でもあるかのように、フェリオの執務室の机には村からの要望書
セフィーロの制度に関する報告書、他国からの親書など様々な書類が積み上げられる日々が続く。
昔から外を駆け回るのが好きだった彼には多少頭の痛い現実ではあったが
また近々遊びにやってくるであろう一人の女性の存在が机に向かわせていた。
「次はいつだったかな…」
部屋の窓を大きく開放つと、目の前には眩しい緑の樹々が広がり疲れた目を癒してくれる。
しばらく緑を眺めていると、頬を優しい風が撫でていった。
その心地よさに目を閉じていると、いつだったか二人でお茶を飲んでいた時の会話がふっと耳元に蘇った。
『私の名前は風という意味の字が使われているんです』
『風?風って外を吹いてる風のことか?』
『ええ。風という字を別の読み方で読むと私のフウという名前になるんですよ』
そう言って笑った顔が可愛くて、思わず口付けをしてしまったっけ。
その後顔を真っ赤にして、いきなりはズルイと膨れられてしまったことを思い出しフェリオは口元を緩めた。
そうしていると、先程と違って少し勢いを増した風がざっと部屋の中に舞い込み
机の上の書類を数枚天井へ巻き上げた。
「失礼します。王子、ファーレンからの親書の件で………王子、何をなさっているんですか」
コンコンと軽いノックの後にクレフが顔を出し、舞い上がる書類を悠長に眺めつているフェリオに怪訝な目を向けた。
そこでようやくフェリオは風に飛ばされたプリントを拾いに窓から離れた。
「ちょっと色々な」
「まあ‥色々は構いませんが早く書類を拾って下さい。重要書類が亡くなったらどうなさるんですか」
「解ってる解ってる」
クレフは風に飛ばされた書類を見ながら笑うフェリオを横目に見ながら溜息をつき
自分も書類を拾いにかかる。
と、すぐに風が再び部屋に舞い込み書類を数枚さらっていった。
「…王子、拾う前に窓を閉めては如何です?」
「ん?どうしてだ?」
「どうしても何も、また書類が飛びます」
「ああ、それは…ほら、むくれてるんだよ、風が」
そう言って再びおかしそうに笑うフェリオを見て、クレフは何も言わずに二度目の溜息をつき
散らばる書類拾いに専念した。
窓からは、穏やかな風が入ってきている。
何か書類を押さえるものを探さないといけないな、などと考えながらフェリオは心地良い風と
そんな風を感じることが出来る日々を作ってくれた異世界の少女に思いを馳せた。
そよ風と君
優しく吹く風にさえ、お前が願ってくれた平和な世界への思いを感じることが出来る。
こうして小さな幸せを感じることが出来る。
もしも叶うなら、お前にとってのオレの存在が、そよ風のように絶え間ない笑顔を運ぶ存在であるように…
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